単結晶貴金属酸化物薄膜を用いた水電解触媒の表面界面構造・異種元素添加の影響解明

イリジウムやルテニウムの酸化物(IrO2, RuO2)は固体高分子型水電解(PEMWE, Proton Exchange Membrane Water Electrolysis)の酸素発生反応(OER, Oxygen Evolution Reaction)用の触媒として広く研究が進められています。しかしながら、その触媒活性や反応下での安定性に関する表面構造(結晶面)や異種酸化物担体との界面の影響、更には異種元素を添加した際の触媒活性向上の起源などが明らかになっていません。
本テーマでは、真空蒸着法を用いて貴金属酸化物の表面・界面の原子配列がよく制御されたモデル触媒を作製し、水電解触媒の性能に影響する種々の構造因子を解明し、その機能向上に資する基礎研究を推進しています[1-3]。
再生可能エネルギー由来の電力運転下での触媒剥離抑制

水電解法の一つであるアルカリ水電解(AWE, Alkaline Water Electrolysis)を太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー由来の電力で運転した場合、天候等に起因する変動する電力により集電体に塗布した触媒が剥離し、その性能が著しく低下することが課題となっていました。私たちは、集電体金属と触媒層の異相界面の構造をナノレベルで精密制御することにより触媒層の剥離をほぼ完全に抑制することに初めて成功しました[1]。
電気化学処理によるステンレス鋼表面への高活性触媒層の生成

大規模グリーン水素製造技術としてアルカリ水電解(AWE, Alkaline Water Electrolysis)が注目されています。現在AWEのアノード(陽極)にはNi基触媒や電極が使用されていますが、より高活性かつ安価な電極材料の開発が求められています。
本テーマでは、Niに対し資源量・コストの両面から優れるステンレス鋼に着目し、ステンレス鋼をAWEアノードとして実用化するための表面処理方法を開発しています。これまで、ステンレス鋼に所定の電気化学処理を施すことでNiFe水酸化物/酸化物触媒層が生成し、これが高いOER活性を有することを見出しました[1, 2]。更に、この触媒層を有するステンレス電極は再生可能エネルギー由来の電力を用いた際に起きる電位変動を模擬したサイクル試験に対し極めて高耐久であること[2]、触媒層生成挙動の負荷電位依存性[3]などを報告しています。